気持ちいいマッサージの追及こそが、私のセラピスト人生においての最大のテーマである。
もちろん、リラクゼーションとはいえ、体の不調を何とかしたいと来られるお客様が大半な訳だから、コリや痛みの取り方についても人並には勉強してきたつもりであるし、それなりに結果を残せる感覚もある。がしかし、「今までで一番気持ち良かった」と言ってもらえることが私にとって最大の喜びであることは、セラピストになってから一貫して変わらない。
私は決してゴッドハンドにはなれない。これが自分自身の適正をしっかりと見極めた上での答えだ。
一瞬で全てのギックリ腰や四十肩を治せると豪語する生粋のペテン師はさておいて、世界中の治療を徹底的に学んでいる方や、解剖学を完璧にマスターしている方には、治療テクニックの面では絶対に勝てない。ただし、マッサージの本質が「治療」だけではないのが実に面白いところであり、リラクゼーションセラピストが勝負できるポイントでもある。
私はよく、痛みをを取り除く際に「トリガーポイント療法」のテクニックを用いる。詳しくは、「【トリガーポイントとは】一覧マップ・効果・マッサージ法を解説」を読んで頂きたいのだが、簡単に説明すると、痛みの原因となっているコリ(トリガーポイント)を見つけ出して、そこを刺激することで痛みを解消させるやり方だ。
単純に考えれば、トリガーポイントを鍼でぶっ刺したり、ブロック注射をぶち込んでやるのが一番手っ取り早い。が、これがそうとも限らない。おそらく気持ちの面での影響が大きいと考える。
実際に私は、鍼が苦手だし、鍼治療があまり効かない。注射嫌いや先端恐怖症というわけではないのだが、トリガーポイントに鍼が入った時の、あのなんとも言えないチクチク感が、心の衛生上よろしくない。トリガーポイントが消滅しないのはおろか、体に奇妙なリキみが生まれ、他の部位に悪影響を及ぼしているのではないかと思うほどだ。カイロプラクティックでのバキバキや、力任せで痛いだけの整体もしかりだ。
決してこれらの治療法を否定しているわけではない。鍼治療と抜群に相性の良い人も大勢いるし、強圧のマッサージじゃないと満足できない人もいる。
ただ1つ確実に言えることは、「気持ちいいマッサージの効果」も無視できないということだ。
治療テクニックを追い求めるセラピストには、この視点が欠けている。欠けているというよりも、視界にすら入っていないので、これは致し方ない。
ならば、リラクゼーションセラピストはこの領域を徹底的に追及すれば良いのではないだろうか?気持ちいいと感じることが、どれだけ心身に良い影響を与えるかは計り知れない。
気持ちいいマッサージが、クライアントとセラピスト自身の心にとてつもない癒し効果を与えることを私は知っている。そして、治癒効果の面でも、まだ科学では解明できていない大きな可能性も持っていると信じている。
先ほど、セラピストになってから一貫して「気持ちいいマッサージ」を追求してきたと述べたが、それを表現するのは非常に難しい。
自分が追求してきた気持ち良さや、受けてみて気持ちいいと感じるマッサージははっきりとしているのだが、それを論理的に示すことができなかった。
世界の研究論文も探しても、「気持ちいいマッサージ」に焦点を絞っているものは皆無に等しい。それならば、いっそのこと自分自身で証明してみようと思い立つに至ったのだ。
自分の感覚だけを述べても仕方ないので、「ホルモン」と「体性感覚(触覚)」を私なりに勉強し、「本当に気持ちいいマッサージとはなにか?」を、論理的に、半ば強引に結論づけてみた。
もちろん異論があって当然。
あくまで私が感じる「気持ちいいマッサージ」を正当化しているだけの理論だ。
1ミリだけ補足させて頂くと、私は人が羨むような特殊能力を持ち合わせてはいないが、人よりは少しだけ様々な「感覚」に敏感なのではないかと客観的に自己分析している。そのおかげなのか、あっさりと深い瞑想状態に入れたり、明晰夢を意識的に見れたり、その先の少し特殊な体験もできたりしている。自己陶酔しているわけではないし、自慢に聞こえると嫌なので、興味のある方だけサイト内検索して頂ければ、いくつか体験談は語っている。
そんなこんなで、無理やり正当化はしているが、あながち的外れな理論ではないと思っているので、参考程度に役立てて頂きたい。
マッサージが気持ちいい理由【マッサージが与える4つの幸せホルモン】
はじめに、科学的にも証明されている「マッサージが気持ちいい理由」を解説する。そこには、マッサージを好きになる人の心理が隠されている。そう、マッサージを受けることで発生される「幸せホルモン」だ。
幸福や喜びなどの前向きな気持ちを促進するのに役立つホルモンは、以下の4つが有名だ。
4つの幸せホルモン
- ドーパミン
- セロトニン
- オキシトシン
- エンドルフィン
ドーパミン
「気持ちいいホルモン」としても知られているドーパミンは、中枢神経系に存在する神経伝達物質だ。
アドレナリンの前駆体でもあり、学習、記憶、運動系機能などとともに、快感に関与し、依存を引き起こす脳の報酬系の重要な部分を担っている。
セロトニン
セロトニンは精神面に大きな影響を与える神経伝達物質だ。
セロトニンが不足すると精神のバランスが崩れ、暴力的になったり、うつ病を発症する原因にもなると言われている。
気分の他にも、睡眠、食欲、消化、学習能力、記憶を調節するのに役立つ。
オキシトシン
「愛情ホルモン」として有名なオキシトシンは、出産、育児、親子の絆に不可欠なホルモンだ。
人間関係における信頼、共感、絆を形成するのに役立ち、タッチ、キス、ハグ、セックスなどの肉体的な愛情とともに増加する。
エンドルフィン
エンドルフィンは脳内で発生する自然な鎮痛剤であり、モルヒネ同様の作用を示すことから「脳内麻薬」とも呼ばれる。
痛みやストレスを和らげる他、食事、運動、セックスなどの依存を生み出す活動に従事するときにも増加する傾向がある。
マッサージを受けることで、これら4つの幸せホルモンすべてのレベルを上昇させることが分かっている。
2004年の研究で、マッサージによってストレスホルモンであるコルチゾールレベルを平均31%低下させ、セロトニンは平均28%、ドーパミンは平均31%の増加が認められた。また、2016年、2015年のそれぞれの研究において、マッサージがオキシトシンやエンドルフィンの増加に貢献すると示された。
気持ちいいマッサージによって心に良い影響を与えることは、もはや異論の余地はないだろう。
マッサージが心や身体に与える効果については下に記事で詳しく解説しているので、この記事を読み終えた後にでも読んで頂ければと思う。
【マッサージの効果】心と身体に与える影響をわかりやすく解説!
このように、マッサージを受けることによって4つの幸せホルモンが増加し、心に良い影響を与えることは理解できたかと思う。この癒しの効果は自然治癒力の向上に大きく貢献することは間違いない。
病院や治療院ではなかなか享受することのできない「癒しの力」を、リラクゼーションセラピストにはぜひ追求してもらいたいところだ。ソースは忘れてしまったが、ある研究では、クライアントと同様もしくはそれ以上に、セラピスト自身にもこの4つの幸せホルモンの上昇が見られたという。「4つの幸せホルモン」は後にも出てくるので、軽く頭に入れておいてほしい。
※すべての素材画像はクリックで拡大できるのでご自由にお使いください。
「痛み」はなぜ気持ちいいのか?【痛みと快楽の境界線】
さて、「痛み」と「気持ち良さ」の関係性についてだ。
冷静と情熱の間は「ふつう」であり、空と君との間には「冷たい雨」が降るわけだが、痛みと快楽の間にももの凄く繊細な境界線が存在する。
痛みと快楽の関係性を示す研究報告は世界中で多数行われている。通常の人間なら痛みは避けて通りたいものだが、人は時として痛みを喜びに感じることが非常に多くある。
優しくジェントルタッチなマッサージも気持ちいいのだが、コリをしっかり捉えた時の「痛気持ち良さ」は何とも言えない快感だ。
痛気持ちいいマッサージと同様に、辛い食べ物、ホラー映画、熱い温泉やサウナ、もっと言えばSMプレイを好む人間のメカニズムも同じだ。これは「ランナーズハイ」として知られており、痛みや負荷がエンドルフィンを放出させ、それが体内や脳内でモルヒネのような反応を引き起こす原理だ。
エンドルフィンは痛みやストレスをブロックさせる役割を担っているが、同時に陶酔感や多幸感といった依存を生み出すことがある。過酷なランニング・山登り・筋トレに没頭するように、痛気持ちいいマッサージにもまた依存性があるのだ。
しかしながら、全ての痛みに依存性があるのかと言えば、それはもちろん間違いだ。
セラピストに肩のコリを押されるのは気持ちいいが、変質者にいきなり強く肩を掴まれれば、ただの恐怖でしかない。
この良い痛みと悪い痛みを区別する重要な要素は「心理的要因」すなわち「信頼関係」だ。悪いことはされないという安心感と信頼感があれば、多少の痛みはリラックスと気持ち良さに変わる。
逆に言えば、初対面で不愛想で信頼関係が全く築けていない段階で、いきなりゴリゴリ・バキバキされれば、それは痛いだけの拷問となる。
痛気持ちいいマッサージがコリの解消に効果的な理由
痛みには依存性があると話したが、痛気持ちいいマッサージにはまた、コリを効率的に解消させる能力を持ち合わせている。
通常のマッサージがコリを軽減または解消させる原理は、固まっている筋膜や筋肉(いわゆるコリやハリ)をマッサージすることで、血液・酸素・リンパ液の循環を高め、コリや疲労物質を取り除いていくといった流れだ。
これに、前途した気持ちいいマッサージによる4つの幸せホルモンビームを浴びせれば、さらなる自然治癒力の向上が見込める。
スライムのような雑魚キャラ的なコリであれば通常のマッサージで十分なのだが、痛みのキーマンとなっているラスボス的なトリガーポイントはそう簡単にはいかない。
そこで「痛みの周波数」というリーサルウェポンをブチかますのだ。
世の中の物質にはすべて周波数が存在し、トリガーポイントといったコリも例外ではないし、ガンにも存在する。特定の周波数を持ったトリガーポイントを刺激することで、本来感じていた痛みの症状が再現される。その痛みの周波数が共鳴することで、痛みが消滅していくのだ。(痛みの強さは7~8割程度が理想とされている)
「痛みの共鳴」がとても重要なキーポイントとなる。ワイングラスに、共鳴する周波数の音を浴びせ続けると、いずれワイングラスが割れるといった現象と同じだと考える。
トリガーポイント療法を知らない方にはにわかに信じがたい現象かもしれないが、これはゴッドハンドでなくても普通に再現できるので、詳しくは【トリガーポイントとは】一覧マップ・効果・マッサージ法を解説を読んで頂きたい。
以上のことから、「痛気持ちいいマッサージ」が、依存性だけではなく、実際にコリや痛みの解消に効果的であることが理解できたであろう。
通常のマッサージで血液・酸素・リンパ液の循環を高めてコリや老廃物を取り除いていき、痛みの共鳴によって痛みやトリガーポイントが消滅し、気持ちいいマッサージによる幸せホルモンがさらなる自然治癒力を高めていくのだ。
重要事項として、痛いだけのマッサージは逆効果だということは肝に銘じておいてほしい。痛すぎることで体は硬直し、他の部位や心身面に悪影響を及ぼす。
しかし、「痛い=効いている」といった、自身の思い込み心理(確証バイアス)、もしくは、無知なサディスティックセラピストによる洗脳により、痛みを我慢してしまう。
痛みは慣れ(耐性)と依存を引き起こし、さらなる痛みを求め、いずれ「ペインホリック」状態となる。ペインホリックは私が勝手に名付けた造語なのでググっても出てこないが、いわゆる痛み依存症のような状態だ。
これがどんどんエスカレートしていくと、どんなに強揉みでも痛みすら感じない、「無痛覚モンスター」へと変貌を遂げてしまう。浦沢直樹先生もビックリだ。
先天的に痛みを感じない病気の方は仕方ないが、こうした後天的な無痛覚モンスターを生み出してしまっているサドセラピストの罪は重い。私もこの大罪に加担していた時期もあることを謝罪したい。
雇われている立場であれば、強く出られない、クレームを避けたいという気持ちが働くのも十分理解できるのだが、ご自身のサロンもしくはご自身が会社の上の立場の人間であれば、限度を超えた強揉みに対応してしまうのは避けたいところだ。
本当に効果の高いマッサージというのは、凝っていない箇所は気持ちいい程度のマッサージで十分で、強いコリやハリ・トリガーポイントがある部分に対しても7~8割程度の痛気持ちいいマッサージに留めておくことが重要だ。
気持ちいいマッサージの5つの条件
では、どのような条件が重なった時に気持ちいいマッサージだったと思えるのだろう?私が考える気持ちいいマッサージの基本条件は以下の5つになる。
気持ちいいマッサージの条件
- 店内の雰囲気(視覚)
- 良い匂い(嗅覚)
- 癒される音(聴覚)
- セラピストとの相性
- マッサージ技術
1. 店内の雰囲気(視覚)
施術中はほぼ目を閉じているので、あまり関係がないかもしれないが、一番最初に店内に入った時に抱く視覚的感情はやはり重要である。
雰囲気や内装の好みは人それぞれだが、少なくとも清潔感のある癒される雰囲気のある「ホリスティックな空間」が良い。
いくらゴッドハンドのセラピストだとしても、公衆トイレの中ではその能力は発揮できないし、お客様も二度と訪れることはないだろう。
白・茶・緑を基本とした自然と調和したアースカラーには、セロトニンの分泌を増加させ副交感神経を優位にさせる癒しの効果があり、寒色系は精神を落ち着かせ、暖色系は健康促進にも繋がる。
ご自身の求めるコンセプトや好みと照らし合わせて決定すれば良いが、タイ古式やアロマオイルマッサージ店など、癒しの要素が高いサロンでは特に重要になってくる。
2. 良い匂い(嗅覚)
香りもまた、心身のリラックスに係る自律神経に大きな影響を与える。
ラベンダーを代表とするフローラル系の香りには高いリラックス効果があり、柑橘系はリフレッシュ効果、ウッディ系は鎮静効果と、各アロマによって様々な効果やホルモンへの影響の違いがあり、勉強するだけでも楽しい。
下記のサイトは僕もお気に入りなので、ぜひ勉強に役立っててほしい。
ちなみに私は、ゼラニウムやラベンダーは好きだが、イランイランが苦手だったりする。
店内は、セラピスト自身だ好きな匂いを選ぶか、万人受けする香りをチョイスすれば良いが、くれぐれも、フェイスピローや着替えが臭いというのは避けたい。
いくらマッサージが上手でも、それだけで赤点を叩き出すこととなる。
3. 癒される音(聴覚)
音の持つ癒しの効果も軽視できない。
有名なのは「1/fのゆらぎ」の周波数を持った、自然の音(小川のせせらぎ、波の音、そよ風)やヒーリング・インストゥルメンタルミュージックなどだ。
鳥のさえずりも、セロトニンの分泌を増加させる高いリラックス効果がある。
ハードロックやヘビーメタルも、気分を高揚させる効果はあるかもしれないが、リラックスするにはさすがに無理がある。
近年は、ASMRサウンド(心地良く脳がゾワゾワするような反応や感覚)といったコンテンツもYouTubeなどで大人気だ。
ちなみに私が目指しているのも、音に限らず、脳がゾワゾワするようなマッサージでもある。
いくら癒し効果の高い音楽だとしても、大きすぎる音はかえってマッサージやリラックスの邪魔をするので、控えめがおすすめだ。
4. セラピストとの相性
気持ちいいマッサージには、セラピストとの相性が非常に重要になってくる。
技術的な相性もそうだが、心理的・生理的な相性もしかりだ。
例えば、不潔感のあるセラピストは視覚的に不快だし、汗臭さやきつい香水の香りも気分を害する。
声のトーンが生理的に受けつけない人もいれば、施術中の息づかいやおしゃべりがどうしても苦手な方もいるだろう。
技術面の相性は致し方ないが、生理的な相性はできるだけウィークポイントをカバーしておきたい。
最低限の清潔感と匂いエチケットは必須だ。
クライアントとセラピストの持っている波長がバッチリ合わさった時の心地よさは、真冬に飲むスタバのジンジャーブレッドラテを軽く凌駕する。
5. マッサージ技術
マッサージ技術もセラピストとの相性が重要であることに異論はない。
しかし、すべて相性次第だと言うのであれば、そこに素人とプロの違いは生まれないので、やはり経験とテクニックは気持ちいいマッサージの上で一番重要になってくる。
高いマッサージスキルを持った上で、そこにクライアントとの相性の良さがドンピシャにマッチングしてはじめて、「最高に気持ちいいマッサージ」が完成する。
正直、この「最高に気持ちいいマッサージ」に出会う確率はかなり低いと思っている。
私自身、客としても相当数のマッサージを受けてきたが、素晴らしく相性が合うなと思えたのは1人か2人だけだ。
それでも100満点ということではない。
このマッサージ技術が本記事の肝となるパートなので、次の章で詳しく解説する。
気持ちいいマッサージを科学的に解明【体性感覚からひも解く】
さて、この章が本記事で1番伝えたいパートととなる。
冒頭で述べたように、私はセラピストになってから一貫して「気持ちいいマッサージ」を追求してきた。感覚で言えば、脳や背すじがゾワゾワっと感じるような気持ち良さを出せるマッサージだ。
フェザータッチのような性的な快感ではなく、しっかりと筋肉を捉え、圧をかけつつも、このゾワゾワ感を出せるようなマッサージになる。
みなさんも、感動する曲を聴いたり、寒い日に温かい温泉に入った瞬間や、我慢してオシッコした時とかにでるあのゾワゾワ感を経験したことはあると思うが、まさにあの感覚に近い。
今まで相当数のマッサージを受け、業界大手のリラクゼーション会社でマッサージ講師もやり、何百人ものセラピストさんのマッサージを受けてきたが、このゾワゾワさせる気持ちよさを出せるセラピストはあまり多くはない。(ごく稀に天性の癒し系セラピストが存在するが、私はそれには程遠い)
この感覚は普通の指圧では出すことができない。
先に伝えるべきだったが、私はドライマッサージ(推拿・もみほぐし・ボディケア)が専門分野なので、ドライマッサージにおいての気持ちいい揉み方を解説する。要は、「指圧」「揉捏」「ストレッチ」などの手技で、どれが1番気持ちいいのかの解明だ。
何人ものクライアントに直接確認し、どの揉み方(圧し方)が最も気持ちいいのかを聞きながら手技を固めていったので、私の中での定義はある程度確立できていたのだが、なぜ気持ちいいのかを論理的・科学的に証明することができなかった。
世界の論文を漁っても、「気持ちいいタッチ」の研究はいくつか見つかったが、「気持ちいいマッサージの手技」についての研究は見当たらなかった。
ならば、自分自身で少し解明してみようと思ったのが、今回の記事のきっかけだ。
もちろんこのやり方が100点というわけではなく、異論があって当然だし、あなたが気持ちいいと確信しているマッサージ法があるのであれば、それを追求してくれれば良い。
ただ、少なく見積もっても、もみほぐしの分野で、ここまで気持ちいいマッサージについて科学的に捉えている人はいないと思うので、多少の参考にはなるのでないだろうか。(実はお2人だけ、気持ちいいマッサージについて発信している方がおり、とても尊敬しているのだが、私の感覚とは少し違う。)
間違いなく、新人セラピストさんがこの揉み方を実践すれば、「今までで一番気持ち良かった」と言ってもらえる確率は絶対に高まる自信はある。
オイルマッサージやタイ古式とは手技が異なり、また、直接肌に触れたり、密着の多いマッサージは、どうしてもクライアントとセラピストの生理的相性がマッサージの気持ち良さを左右する上での比重率が高くなるので、参考になるかは疑問だが、考え方を応用すれば多少は役立つこともあると思うので、ぜひ読み進めていってほしい。
体性感覚とは?
この気持ちいマッサージ理論を説明するには、体性感覚について知る必要がある。
体性感覚には、皮膚感覚(表面感覚)と深部感覚がある。(内臓感覚や、視覚・聴覚・嗅覚・味覚といった特殊感覚は含まない)
皮膚感覚には、触れられて感じる触覚、押されて感じる圧覚、温かい冷たいなどの温度感覚、痛みの痛覚などがある。触覚を捉える機械受容器(メルケル盤・マイスナー小体・パチニ小体・ルフィニ終末など)、温度を感じる温度感覚器、痛覚を捉える侵害受容器・ポリモーダル受容器といった各受容器の、それぞれまたは複数で感覚を察知し、各神経線維を通って脊髄に伝わり、電気信号としてだいたいが脳の体性感覚皮質に伝わる。
深部感覚には、筋肉の中にある筋紡錘(きんぼうせん)、腱にあるゴルジ腱器官、関節にある関節受容器があり、それぞれの運動感覚を捉え脳に伝える。目を閉じていてもその動きや位置を感じることのできる感覚で、パチニ小体やルフィニ終末も運動感覚に関わっている。
皮膚感覚と深部感覚ともに、痛覚は自由神経終末である侵害受容器とポリモーダル受容器で察知する。強い圧痛や鋭い痛みといった機械的な痛みは侵害受容器で、ポリモーダル受容器は痛みや熱といったすべての侵害刺激+コリやハリによる筋肉や筋膜の痛みを捉える。この様々な痛みを察知するポリモーダル受容器は、筋膜・筋肉・腱・骨膜といった、体内のあちこちに存在する。
では、「気持ち良さ」はいったいどの受容器で感じているのだろうか?
実は気持ち良さを直接感じ取る受容器はない。
基本的に、メルケル盤・マイスナー小体・パチニ小体・ルフィニ終末の4つのセンサーで触覚や圧覚を捉え、それが脳に伝わり、脳が気持ち良いか否かを判断すると考えて良い。
では4つのセンサー(受容器)についても軽く説明しよう。
メルケル盤
メルケル盤は、皮膚の表面近く、特に唇と指先に高密度で存在する。
その他の無毛皮膚には多少存在するが、有毛皮膚ではごくまばらである。
皮膚が0.05ミリ押されただけでも反応し、1.5ミリ押し込まれた時に感度が最大となり、接触が続く限りずっと信号を受け取ることができる。
以上のことから、指先や手のひらでタッチするセラピスト側にとって重要なセンサーと言える。
マイスナー小体
マイスナー小体も、メルケル盤と同じく皮膚の表面近くに存在する触覚に重要なセンサーで、物をつまむ時や握る時の力の調節に関与する。
指先だとメルケル盤よりも多く存在するが、マイスナー小体は皮膚を一定の力で押し続けている間は反応しない。
押し始めや押し終わりといった、小体が変形する時にだけ反応するのだ。
つまり、皮膚が動く振動を察知した時に強く活性化する。
皮膚が横に動いたり、滑る・擦れる動きに敏感だと言える。
パチニ小体
パチニ小体は皮膚の比較的深い部分に多く存在する。(とは言っても、皮膚の厚さは平均2ミリだが。)
マイスナー小体と同じく、持続的な力には反応せず、皮膚が押された時と話された時にだけ反応する。
特に、圧と振動を捉える感覚に優れている。
ルフィニ終末
そしてルフィニ終末も皮膚の深い部分に存在し、皮膚の横方向に引っ張りに強く反応する。
持続的に引っ張られている間もずっと反応を続けるが、振動に対してはさほど反応しない。
つまり、ストレッチ運動に反応するセンサーと考えてよいだろう。
体性感覚やタッチの快感については、デイヴィッド・J・リンデン氏の「触れることの科学」が圧倒的に面白いので、ぜひ読んでみて欲しい。少々、性感について多くのページを割いているが、とても勉強にはなる。
気持ちいいマッサージの仕方とは?【手技のコツ】
では、この4つの感覚センサーの特徴を考慮して、「指圧」「揉捏(じゅうねつ)」「ストレッチ」のどの手技が気持ちいいのかを考えてみる。
ここからは私の感覚を正当化させるために無理矢理こじつけた暴論となるので、無条件で信用しないで欲しい。
指圧
皮膚・筋肉を、垂直に押して垂直に抜く指圧は、パチニ小体で強い反応がみられると考える。
しかし、上で説明した通り、パチニ小体は持続圧には反応しない。
垂直圧での指圧は、左右の動きやストレッチ要素もないため、マイスナー小体やルフィニ終末もさほど反応しないだろう。
実際にあなたの太ももを指で真っ直ぐ押してみて欲しい。
特に気持ち良さは感じないはずだ。
指圧が最大の力を発揮するのは、痛みのあるコリやトリガーポイントに対してなのだ。
特に指圧での持続圧は、トリガーポイント指圧の際の「痛みの共鳴」に適しており、痛気持ちいい刺激は脳内麻薬のエンドルフィンも増加させる。
指圧の気持ち良さとは、皮膚感覚の気持ち良さではなく、痛みと関係する気持ち良さだと言える。
言い換えれば、凝っていない部分に対しては気持ち良さを出せないが、凝っている部分に対しては「痛気持ちいマッサージ」と「痛みの解消」効果の2つの威力を最大限に発揮するということだ。
揉捏(じゅうねつ)
ここでの揉捏は、肩もみのようなもみほぐしではなく、あん摩の手技で用いられる「揉捏法」のことを指す。
揉捏法とは、指で圧をかけながら筋肉を左右に揺らす手技だ。(指以外もある)
一見、マイスナー小体・パチニ小体の両方が強く反応するように感じる。
しかし、皮膚が横に動く気持ち良さを感じるには圧が強過ぎで、また圧をかけている時の指の往復は2~4回程度なので持続圧とも言えない。
揉捏法が一番適しているのは、筋肉や筋膜のハリを緩めるスポーツマッサージのような場面だ。
圧をかけながら筋肉をグリグリ動かすため、コリやトリガーポイントに対しての痛さは指圧より出せるが、持続圧ではないため痛みの共鳴には向かない。
この揉捏法が役立つのは、マッサージする部位の反対側に壁(抑え)がない場合だ。
例えば、臀部を横からマッサージする時や、腕を揉む時、横向きでの肩の施術の時などがそれに当たる。
反対側に壁がないために体重を乗せられない時は、揉捏法で筋肉を捉えながら揺することで、圧が逃げづらくなり痛気持ち良さを与えることができる。
ただし、いちばん揉み返しを起こしやすい手技になるので、強さには注意が必要だ。
ちなみに、通常の肩もみのような、皮膚を大きく動かすような揉み方だと、ゾワゾワっとした気持ち良さは出しやすいが、持続圧や痛みの共鳴には向かない。
1つ余談だが、治療家寄りのセラピストさんはよく横向きでの施術を好む。
確かに肩周りの筋肉が緩むので、肩や首の斜角筋をほぐすには適している。
ただし、うつ伏せの肩の施術時に比べると、圧倒的に気持ち良さに劣る。
なぜかあのゾワゾワ感が出せないのだ。
理由ははっきりとわからないのだが、どうしても壁がないために体重を乗せられず、手もみになっているからだと推測する。
また、クライアント自身が少なからず力を入れて、体が倒れないように支えようとするので、これではやはり気持ち良さが半減する。
もしくは皮膚や筋肉が緩みすぎていると気持ち良さを感じづらいのか?説明できる方はご教授頂きたい。
ただ、患部の筋肉が弛緩していた方が、深部に圧が届きやすくほぐれやすいので、そこはケースバイケースで使い分けると良い。
ストレッチ
ストレッチは、皮膚の横方向に引っ張られ、また持続にも反応するルフィニ終末が主に作用していると考えられる。
タッチでの気持ち良さはないので、痛みに関連した気持ち良さと言える。
ストレッチで最高の気持ち良さを出すには、相当のスキルが必要だと私は考えている。
限界突破してしまえば、もはやサバイバーと言えないほど苦痛だし、少しでも弱いと全く意味がない。
常にMAXの強度に届くか届かないかの絶妙な力加減が必要になってくるので、そこを極めているセラピストは強いし依存性は高いだろう。
ちなみに私は、アメリカでスポーツ学を勉強してきたのだが、静的なストレッチよりも動的なストレッチの方が効果的だと思っている。
リラクゼーションにおいてはケースバイケースではあるが、ここも使い分ければ良いと思う。
私が辿り着いた一番気持ちいいマッサージの手技
では、一番気持ち良い手技はどれなのだろうか?(ストレッチの快感は少し特殊なので省く)
私の中での答えは簡単だ。(というか、セラピスト当初からこの考えは変わらないのだが)
指圧して揉めば良い。
なんてことはない、多くのセラピストも行っているであろう、いわゆる「もみほぐし」の手法だ。
あまり気にしていなかった人もいるかと思うが、これは中国の伝統手技療法である推拿の「指按法(しあんぽう)」という手技だ。日本の指圧もここから来ているが、指按法は指で圧しながら手首を返して揉むやり方だ。
指圧の揉まない直圧が最高峰だと考えている方もいるかもしれないが、これは少し飛躍し過ぎている。元々、日本の指圧も按摩も、中国の推拿(当時は按摩)から派生した手技なので、指圧だけが特段優れていると考えるのは無条件愛国主義に近い。
マッサージにはそれぞれの素晴らしさがある。
とは言いつつも、私はこの指按が気持ちいいマッサージには欠かせない手技だと確信している。
指按が優れているのは、深部のコリに対しては指圧による痛気持ち良さを出しつつ、圧を抜きながら手首を返すことで皮膚が動き、マイスナー小体とパチニ小体に抜群の気持ち良さを与えることができるところだ。これが、指圧の直圧には出せない気持ち良さの理由となる。
ただし、気持ち良さを最大限に引き出すには、ちょっとしたコツがある。
まずは、4本の指(四指)で擦りながら手首を手前に引く。こうすることで、四指による軽擦の気持ち良さと、一度手前に引くことで手首を返す時の可動域が最大限に広がり、皮膚を大きく動かすことによって気持ち良さが増す。
拇指(親指の腹)を体の接地面に着地させたら、ゆっくりと垂直に圧をかけていく。これは指圧も同じだが、しっかりと体重を乗せて圧をかけるようにしよう。手押しでは絶対にダメだ。
圧が沈み切ったところで3秒程度の持続圧をかけ、ゆっくりと手首を前方に返しながら圧を抜いていく。手首は真っ直ぐ返した方が良い。斜めに捏ねてしまうと皮膚が少しつれるので、気持ち良さが若干減る。(箇所によってはOK)
持続圧の長さはケースバイケースだが、コリのある部分に対しては沈み切ってから3秒程度、コリのない部分に対しては持続圧なしで揉むように手首を返していってよいと思う。
言うならば、前者を「深指按」、後者を「浅指按」といった具合だ。
部位によって重ね拇指や一指と使い分けよう。(推拿には「一指禅推法」というやり方もあるが、指按法とは若干異なる)
以上のすべてを踏まえて、私にとって最高に気持ち良いマッサージ(もみほぐし手技)は以下になる。
気持ちいいもみほぐしの特徴
- 全体的に浅指按で気持ち良さを出しながら揉んでいく
- コリのある部分に対しては深指按で痛気持ち良さを出す
- さらに強いコリやトリガーポイントに対しては指圧で持続圧をかけ痛みの共鳴を図る(痛みは7~8割まで)
- 反対側に壁がなく圧が逃げやすい箇所には揉捏法
- 圧は手じゃなく体重で
基本的な流れは上記で、状況に応じて、軽擦法・叩打法・手掌や手根での按法、トリガーポイントや深部にコリがある箇所にはストレッチングをしっかりかけていくといった流れとなる。
手の力だけで押したり揉んだりするのではなく、体重を乗せて圧をかける方が気持ちいいと述べたが、これにはいくつかの要因が考えられる。
まず、手の力だけを利用すると必ず四指で握る力が強くなる。そうすることで、気持ち良さを感じて欲しい拇指の接地面の感覚を捉えるセンサーが鈍ってしまい、気持ち良さが大幅に失われる。また、握力を利用すると皮膚の浅い位置で先に痛みを感じてしまう。
痛気持ちいいマッサージとは体重を乗せて深部のコリを捉えた時にでる痛みを指し、決して皮膚がつれたり刺さるような痛みではない。
上記をご理解頂いた上で、上手な体重のかけ方と肘の使い方を解説する。
上手な体重のかけ方
私は幼少期から様々スポーツをやってきており、アメリカの大学でもスポーツを学び野球部にも所属していた。ちなみに高校は夏の甲子園出場回数が全国一位の強豪校で、1年時には甲子園に行っている(まぁ、スタンドで踊っていただけだが…)スポーツ歴は、野球15年ほど、スキーは小1から、クロスカントリー6年、剣道6年、その他大学時代にバスケ、サッカー、テニス、ゴルフ、ボウリング、ビリヤード、スキューバダイビングと、遊び程度だがとにかく色々なスポーツに慣れ親しんできた、
別にスポーツ歴を自慢したい訳ではなく、これらのスポーツを実際にやって、観て、研究していく中で、ある共通点を発見した。
すべてのスポーツに当てはまるかは不明だが、球技においてのトップアスリートにはかなり高い確率で共通点がある。それは、「腰を張って背中は脱力」ということだ。(本来、腰椎は少し反っているのが自然体だ)
腰にはある程度力を入れて腰椎を立てるようにし、背中はリラックスした方が、インパクトの瞬間に力を最大限に発揮しやすい。
サッカーでは少し微妙かもしれないが、特に上半身を使用してインパクトする球技に当てはまる。野球、ゴルフ、テニス、バスケ、ボウリングなどだ。
これが施術の体重を乗せる際にも役立つ。
施術時の姿勢で「背すじを伸ばす」と教わった人も多いと思うが、これでは説明不足だ。というか、おそらく教える側も理解していない、もしくは間違っている。
正しくは、上記で説明した「腰を張って背中は脱力」だ。
「背すじを伸ばす」を意識するが余り、背中まで真っ直ぐにして動きが固いセラピストが多く見受けられる。これでは、肩甲骨がロックされてしまい、動きも圧も固くなってしまう。腰が丸まり(後傾)体重が乗らないよりはよっぽどマシだが、この固さはクライアントにも伝わってしまうので、少しだけ意識してみて欲しい。
イチロー選手の現役時代のバッティングフォームがわかりやすいので載せておく。サッカーは曖昧だが、野球、ゴルフ、バスケ、テニスでの良いフォームも載せるので、ぜひ参考にしてほしい。ターゲットの位置を考えると、ゴルフのショット前やテニスのサーブを受ける前の姿勢が、施術にも参考になる。
肩甲骨・膝の表面・足の中心よりやや先が一直線になるのが理想だ。その姿勢から、みぞおち付近を中心点とし、ゆっくりと垂直に体重を乗せていけば良い。足は左右どちらかを前方に出しても良い。右利きの人は基本的に重ね拇指の下が右手だと思うので、その場合は右足が前だ。あとは、腰の移動と膝のクッションを利用して体重をかけていこう。
上手な肘の使い方
しっかりと体重圧をかけるには、肘の使い方も重要だ。
新人のうちは、肘を真っ直ぐに伸ばして、力が逃げないように体重圧をかけた方が、強圧はできる。これは間違いないし、私も新人を教える際はそうしてきた。
ただし、しっかりと体重圧をかけられるようになった後は、むしろ肘を少しだけ曲げた方が良い。意識して曲げるというようりは、ピンと張っていた肘を少しリラックスさせる感じだ。こうした方が、深くスーっと入っていくような柔らかい圧をかけられる。
肘を真っ直ぐにすれば必ず手首や指の動きも固くなるため、鋭く刺さるような圧になる。先ほども述べたように、大切なのは深部のコリに届いた時の痛気持ち良さであり、皮膚の表面で感じる痛さではない。
例えば、ハイエースのようなバンに乗ると振動でお尻が痛くなるが、サスペンションの効いたSUVだと痛くなく快適だ。鉛筆の先で押したら痛みで深くまで刺せないが、反対の消しゴム部分なら強く押しても痛くなく深くまで届く。
このような感覚をイメージすると分かりやすいだろう。
背中が反り、肩甲骨がロックされ、肘も真っ直ぐで、ガチガチに固められた状態でぶっ刺すようにマッサージしている人は、少しだけリラックスしてみよう。マッサージ時のセラピスト自身の気持ち良さもかなり変わってくる。
気持ちいいマッサージの方向【求心法 or 遠心法】
セラピストであれば、マッサージの「遠心法」と「求心法」は聞いたことがあるだろう。
東洋系の筋肉や動脈に働きかけるマッサージは遠心法(心臓から体の末端に向かう)、西洋系のリンパや静脈に働きかけるマッサージは求心法(体の末端から心臓に向かう)が一般的だ。
遠心法は、筋肉や筋膜のコリに対してアプローチするので、酸素や栄養を十分に含んだ新鮮な血液を心臓から動脈を介して送り出すといった点で、疲労回復に理にかなっているように思える。
一方の求心法は、動脈によって末端の毛細血管まで運ばれた血液が、静脈となって老廃物を吸収し、静脈で取り切れなかった老廃物はリンパ液によって運ばれるという構造を利用し、老廃物を心臓に送り届ける手助けをするのに役立つ。
血液は、動脈や毛細血管により体の隅々まで栄養を運び、老廃物を受け取った後に約85%が静脈を経由して心臓に戻る。残りの25%は毛細血管を通って体の組織に浸透していくが、残った余分の液体をリンパ管が吸収して静脈に戻すという流れだ。
上記を考えると、疲労回復には遠心法、浮腫み改善には求心法が適していると言えるだろう。
遠心法・求心法ともに、それぞれ利点があるので、どちらが正しくてどちらが間違っているとは言えないし、個人的には2つを組み合わせるとより効果的だと感じている。
しかしながら、気持ち良さだけに焦点を合わせると「遠心法」が有利ではある。
なぜならば、感覚を捉えるセンサーや神経は体の末端や表面に集中しているからだ。
イチゴを例に挙げると、イチゴは先端の方が甘いので、ヘタの方から食べた方が最終的に甘く美味しく感じる。
マッサージも、感覚が敏感な末端や表面に向かって施術した方が、最終的に気持ち良く感じるのだ。腕なら肩から指先へ、脚なら太ももから足先へ、顔なら頬から顎先へ向かった方が、ゾワゾワとした気持ち良さが出せる。肩なら背中から肩に、腰なら背中から腰に向かった方が気持ち良さは出せるのだが、手技によってやり易さがあるので一概には言えない。感覚が敏感な方向へ向かうマッサージが気持ちいいと覚えておいても良いだろう。
往復するストロークのオイルマッサージは、あえて理論を無視して遠心法にする必要はなく、求心法の方が施術の流れ的にも適している場合が多いとは思うが、ポイントポイントで遠心法を活用してみるのも面白い。
愛撫センサー【C触覚繊維】
実は、上記で取り上げた4種類の感覚センサーの他に、優しく撫でられた時に感じる「C触覚繊維」という感覚センサーがある。
C触覚繊維は、毛の生えている肌、すなわち有毛皮膚にのみ存在し、非常に軽いタッチもしくは毛先の柔らかいブラシで、一定の速度で撫でられた時にのみ強く反応する。
最も心地よいとされる速度は、毎秒3~7cm、特に1秒間に5cmほどのスピードで撫でられた時だ。(アメリカの研究では秒速3cmとされている)
面白いのが、映像で他人が撫でられているのを見ただけで、同じように気持ち良さを感じるという。この時のスピードもやはり重要らしい。
ただし、有毛皮膚でなければ気持ち良くないのかといったら、そうではなく、毛のある前腕を撫でても手のひらを撫でても気持ち良く感じるように、無毛皮膚にはC触覚繊維以外の感覚センサーが高密度に存在しているので、しっかりと気持ち良さを感じ取ることができる。
C触覚繊維については、山口創先生の研究が非常に面白いので、調べてみて欲しい。
しかしながら、このC触覚システムでの気持ち良さをマッサージに応用するのはかなり無理がある。タッチセラピー、タクティールケア、フェザータッチのような非常に軽い圧でのタッチには向いているが、圧をかけるオイルマッサージだと、秒速5cmでは遅すぎる。
秒速5cmということは、脚の長さが70cmだとしたら、片道で14秒もかかってしまう。これがいかに遅すぎで健全なオイルマッサージに向かないかは、経験者の方なら容易に想像できるだろう。
秒速5センチメートルが称賛されるのは新海誠監督だけで良い。
そもそもC触覚繊維が反応するのは、0.3〜2.5mNの圧とされているので、2.5mNだとしても0.25g程度の圧になる。BB弾1個分だ。
C触覚繊維は、愛撫のような非常に優しいタッチの時のみに反応する感覚センサーだということは理解しておこう。
陰部神経小体
余談だが、クリトリスや亀頭は、指先や唇と同じく無毛皮膚だが、触覚を察知する機械受容器はほとんど存在しない。
ここに多く分布するのは、熱さや痛みを捉える自由神経終末の「陰部神経小体」と呼ばれるセンサーになる。これは、ペニスの亀頭よりもクリトリスに多く存在し、その他にも、乳首や肛門周辺などの性感に関する無毛皮膚にも存在する。例えば、性器から得た感覚と乳首から得た感覚は、脳のほぼ同じ位置で処理されるので、どちらも同じような性的快感を覚える傾向にある。同じく、足先や踵の感覚も脳の非常に近くに伝わるので、敏感な人は踵をくすぐると性器がピリピリする感覚を覚えるだろう。
人により性感帯が異なるのは、この陰部神経小体の密度の違いにもよる。
マッサージの種類による気持ち良さの違い
マッサージには様々な種類があり、それぞれの素晴らしさや気持ち良さがあるので、優劣はつけるべきではないかと思う。
ある日ふと、「普通に考えると直接肌に触れて温もりや手の感覚を感じられるオイルマッサージの方が気持ち良さそうに感じるのに、なぜ衣服の上から行うドライマッサージも気持ち良いのだろう?」と考えたことがある。
1つは、衣服やタオルを挟むことで、指の接地面が広くなり、刺さるような痛みを抑えられることだろう。また、直接肌に触れないことで、皮膚がつれる痛みをなくす効果もある。オイルを使用することで、この皮膚がつれる痛みはカバーできる。あとは、ドライマッサージの方が体重をかけれるので、強い圧や深部のコリにアプローチできるのは理解できるであろう。
しかしこれだけではない。
オイルマッサージとドライマッサージの気持ち良さの最大の違いは、「セラピストとクライアントの生理的相性」にある。「生理的」は身体機能を表す言葉でもあるが、ここでは「心理的」の意味で用いる。要は「好み」だ。
オイルマッサージは直接肌に触れるため、どうしても生理的に無理なセラピストでは気持ち良さを感じることは難しい。ドライマッサージも多少は気にするが、マッサージ技術があればほぼ問題はない。
例えば、ガッキーや目黒蓮くんのオイルマッサージであれば、下手でも超絶気持ちいいだろう。
逆に、出川さんや江頭さんのオイルマッサージであれば、上手くても問題ありだ。しかし、指圧であれば特に問題はないだろう。
私は、もみほぐしや指圧などのドライマッサージでは、よく男性を指名するのだが、オイルマッサージで男性だとさすがに厳しい。東洋系足つぼはどちらでも良いが、リラックスしたい西洋系リフレクソロジーの時は女性の方が良い。ドライマッサージでも、密着の多いタイ古式だと女性が望ましい。
「下心だしてんじゃねーよ」と言われても、これは好みや生理的な問題なのでどうしようもない。
異性間のスキンシップに抵抗の少ない海外では、男性セラピストが活躍できる場も多いのは納得だ。
また、完全にマッサージ技術のみをウリにしている場合を除き、オイルマッサージやタイ古式といった生理的相性が重視されるサロンは、お店の雰囲気から得られる気持ち良さの重要度も高くなる。記事の前半でも説明した、店内の雰囲気(視覚)、良い匂い(嗅覚)、癒される音(聴覚)だ。私は、技術面云々よりも、タイ古式店の雰囲気だけで癒される。
下記は完全に私の感想ではあるが、マッサージの種類による気持ち良さや重要度の違いを相対的に示したものだ。
さいごに
さて、散々偉そうなことを言ってきたが、肝心なのは「あなたがどうありたいか」に尽きる。
国家資格を持っていてもいなくても、解剖学を徹底的に学んで施術に役立てるのは素晴らしいことだし、技術や知識に優れ高い治療効果を発揮できるセラピストさんはそれだけで尊敬に値する。
ただし、「癒し」や「気持ち良さ」を追求したマッサージにだって治療に負けない素晴らしさがあり、それを求めるお客様はたくさんいるということも忘れないで欲しい。
この記事を読んで頂けたことは何かのご縁であり、ここまで読み進めて頂けた方は、多少なりとも私に共感してくれる部分もあると思うので、1つだけお約束頂きたい。
ゴッドハンドになれないからといって、決して、お客様に恐怖を与えるマネージメント方法をしたり、根拠のないことを自信満々に吹くペテン師になったり、パフォーマンス重視の危険な施術をしないで頂けないだろうか?
指名や売り上げがなかなか伸びずに、これらの人々が羨ましく思えることもあるだろうが、長い人生で見た時に絶対にプラスにはならない。
あなたはどうありたいだろう?
自分の感性を疑い物事を客観的に捉えることも大事だが、最後の最後はやはり自分の感性を信じるしかない。
私はこれからも、「気持ち良さ」と「癒し」を追求する。
さいごに、私は推拿をベースとしたもみほぐしでの気持ち良さを追求してきたが、同じ分野でも良いし、オイルマッサージやタイ古式の分野でも、同じく気持ち良さを追求し続けている方がいたら、ぜひその見解をお聞かせ願いたい。
そんな方がたくさんいれば、この上なく嬉しい。
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